- 十七条憲法とは
- 十七条憲法の凄いところ
- 十七条憲法の条文
- 第一条 上司も部下も和を重んじよう
- 第二条 仏教を拠り所にしましょう
- 第三条 指示命令は守りましょう
- 第四条 礼儀を大切にしましょう
- 第五条 私利私欲に走らず公明正大に仕事をしよう
- 第六条 善い事を奨励し、悪いことを正しましょう
- 第七条 役割・役職には適切な人材を任命しましょう
- 第八条 しっかり仕事に励みましょう
- 第九条 仕事は誠実に行いましょう
- 第十条 独善にならず他者を尊重しましょう
- 第十一条 評価は正しく公正に行いましょう
- 第十二条 権力の乱用、横領はいけません
- 第十三条 共有、引き継ぎをしっかり行いましょう
- 第十四条 他人を妬まないようにしましょう
- 第十五条 私心を持たず協力して仕事に取り組みましょう
- 第十六条 仕事の依頼は適切なタイミングを選びましょう
- 第十七条 重要案件は必ず議論しましょう
- おわりに
十七条憲法とは
聖徳太子が制定したと言われている日本最古の成文法で、『日本書記』に推古天皇の時代(推古12年(西暦604年))に作成されたとして全文が載っています。
「憲法」という名前ですが現代の憲法とは違い、朝廷に使える臣下(官僚)の行動指針や服務規程のような内容です。儒教、仏教あるいは法家などの思想に由来(参考にしている)していると言われています。
「臣下の行動指針」のような内容ということから、その後の天皇制の政治システムにおいても影響を与えたと言われていて、後世の武家社会における法度などにも同様の思想が伺えます。
同じ「憲法」なのに、どうして現代の憲法を性質が異なるのですか?
現代の「憲法」という言葉は、明治時代に大日本帝国憲法の策定にあたって、諸外国の法体系を参考にしたのですが、その際ドイツ語のVerfassungや英語のconstitutionにあたる日本語を決めるときに「憲法」という言葉を充てたと言われています。したがって現代の憲法の概念は明治時代に確立されたので、推古天皇の時代と性質が異なっているのだと思います。
それ以前には「国憲」(国の根本となる法規)という言葉があり、明治天皇は「国憲起草を命ずるの勅語」を発し、各国憲法を研究して憲法草案を起草せよと命じられました。
十七条憲法の凄いところ
私が十七条憲法を読んで(もちろん現代語訳で)凄いと思った点(または感心した点)は次のとおりです。
- 現代でも通用する内容であること
- 様々な思想のいいとこ取りで自分たちの目的にかなう指針をまとめていること
- この時代も今と同じように組織をまとめるのが大変だったことが分かったこと
十七条憲法は、多少の整理とアレンジだけで現代の組織の行動規範としても通用する内容だと思います。「私心(私欲)を捨てて公益に努めよ」だったり、「重大な案件は独断で決めずにみんなで議論しなさい」など、現代の役所や会社にあってもおかしくない内容ばかりです。
(しかも、些細な事は必ずしも議論する必要はないが…と断っているところが秀逸!)
また、当時の先端知識である儒教などの様々な教えを吸収し、自分達なりに理路整然と再構成しているところは、まさに日本人の強みとされる「外から取り入れてさらに良いものにする力」を感じます。この時代からそうだったということは、やはり民族的特性なのでしょか。
以上のようなことに感銘を受けつつ、同時にこの時代も現代と同じように組織をまとめるのに苦労していたんだなぁと思いましたし、同じ苦労があるということは、現代と同じように組織化された朝廷運営がされていたのだと感心しました。
1500年近くたっても人って全然変わらないんですね。
それでは、実際の条文を見ていきましょう。
※各条文の解説は筆者の解釈を現代風に分かりやすくアレンジしたものなので、学問上の正確性がないことをご了承ください。
十七条憲法の条文
第一条 上司も部下も和を重んじよう
一曰、以和爲貴、無忤爲宗。人皆有黨。亦少達者。以是、或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦、諧於論事、則事理自通。何事不成。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
「和(やわらぎ)を以て貴しと為し」は有名な言葉ですね。
和を重視し、争わないことをモットーとしましょう。
人は皆党派を組むものです。
物事を良く分かっている人は少ないものです。
だから、君主や父親に従わなかったり、近しい間柄でも考えが違うこともあります。
しかし、上の人が和かに下の人も睦まじく話し合えば、自然と道理にかなうようになります。
そうすることで何事も成し遂げられます。
第二条 仏教を拠り所にしましょう
二曰、篤敬三寶。々々者佛法僧也。則四生之終歸、萬國之極宗。何世何人、非貴是法。人鮮尤惡。能敎従之。其不歸三寶、何以直枉。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
これは仏教重視の条文ですね。
「三宝」を深く敬いましょう。
三宝とは仏・法・僧のことです。
則ち生きるもの全てが最後に帰すべき拠り所です。
仏法は世の中の究極の教えです。
いつの時代のどんな人もこれを尊いと思えない者はいないでしょう。
人にはどうしようもない悪人は少ないものです。
ちゃんと教えれば道理に従うものです。
なので、三宝に頼れば、悪を正すことができるのです。
第三条 指示命令は守りましょう
三曰、承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆臣載。四時順行、萬気得通。地欲天覆、則至懐耳。是以、君言臣承。上行下靡。故承詔必愼。不謹自敗。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
いつの時代も守らない人が多かったことが伺えます…
君主(天皇)の詔は謹んで承りましょう。
君は天であり、臣は地のようなものです。
天が(物事を)覆い、地が(物事を)載せることで、四季が移り行き、すべてがうまくいきます。
もし、地が天をひっくり返そうとするなら、破壊が起こるでしょう。
こういうわけで君が命ずれば臣下は承り、上の人が動けば下の者も従うのです。
だから詔(指示命令)は謹んで承るようにしましょう。
そうしなければ失敗します。
第四条 礼儀を大切にしましょう
四曰、群卿百寮、以禮爲本。其治民之本、要在禮乎、上不禮、而下非齊。下無禮、以必有罪。是以、群臣禮有、位次不亂。百姓有禮、國家自治。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
礼にはじまり、礼におわる。と、よく言われましたよね。
朝廷に使える官僚達は、礼を根本としましょう。
民を治める根本はまさに礼にあります。
上の人達に礼がなければ、下の人達は乱れます。
下の人達に礼がなければ、必ず罪を犯します。
官僚が礼を有していれば、秩序は乱れません。
民達が礼を有していれば、国家も自ずと治まります。
第五条 私利私欲に走らず公明正大に仕事をしよう
五曰、絶饗棄欲、明辨訴訟。其百姓之訟、一百千事。一日尚爾、況乎累歳。頃治訟者、得利爲常、見賄廳讞。便有財之訟、如右投水。乏者之訴、似水投石。是以貧民、則不知所由。臣道亦於焉闕。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
官僚は賄賂漬けだったんですね。社会の発展段階で必ず通る道なので仕方がありません。
饗応を絶ち、物欲を棄て、良心に恥じないように訴えを裁きましょう。
人々の訴えは毎日ものすごく沢山あります。
一日でさえそうなのに、年月を重ねたら更に多くあります。
このごろは、訴訟の担当者は賄賂をもらうのが当たり前になって、賄賂で態度を決めています。
財産がある人の訴えは、石を水に投げ込むようにたやすく叶えられ、
貧しい民の訴えは、水を石に投げ込むように退けられます。
貧しい民はどうしてよいか分からず、官僚の本来の道理が欠けることになります。
第六条 善い事を奨励し、悪いことを正しましょう
六曰、懲惡勸善、古之良典。是以无匿人善、見悪必匡。其諂詐者、則爲覆二國家之利器、爲絶人民之鋒劔。亦佞媚者、對上則好説下過、逢下則誹謗上失。其如此人、皆无忠於君、无仁於民。是大亂之本也。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
勧善懲悪ってこういうことなんですね。
悪事を懲らしめ、善い事を奨励するのは、古来からの良い慣わしです。
したがって、人の善い行いは隠さず、悪い行いは正しましょう。
諂い詐る人は、国家を覆す便利な道具になり、人々を滅ぼす剣先となります。
また、悪事を企んだり媚びる人は、上の者には好んで下の者が間違えていると言い、
下の者には、上の者の間違いを誹謗します。
このような人はみんな、君に忠誠がなく、人民に対する仁愛もありません。
これが大乱の原因となります。
第七条 役割・役職には適切な人材を任命しましょう
七曰、人各有任。掌宜不濫。其賢哲任官、頌音則起。姧者有官、禍亂則繁。世少生知。剋念作聖。事無大少、得人必治。時無急緩。遇賢自寛。因此國家永久、社禝勿危。故古聖王、爲官以求人、爲人不求官。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
国も組織もそれを担う人が肝心ということですね。
人には各々その役割があります。
職務にあたっては権力を乱用してはいけません。
優れた人を任命すれば讃えられ、邪な人を任命すれば頻繁に厄災が起こります。
世の中、生まれながらに優れた知性を備えた人は少ないです。
よく努力することによって優れた人になります。
事の大小に関わらず、適任者を置くことで必ず治まります。
時の変化の速い遅いに関わらず、優秀な人を得られたら、自ずと世の中が落ち着きます。
これによって、国家は永久に危険がなくなります。
したがって、古の聖王は、役割のために人を求め、人のために官職を設けたりはしなかったのです。
第八条 しっかり仕事に励みましょう
八曰、群卿百寮、早朝晏退。公事靡盬。終日難盡。是以、遲朝不逮于急。早退必事不盡。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
今の時代ハードワーがは悪い事のような風潮ですが、やはり責任ある仕事はしっかり励むのが良いと思います。
官僚は、朝早く出勤して遅くまで頑張りましょう。
仕事は間断なく、終日頑張っても終わらないくらいにあります。
したがって、朝遅く出勤すれば緊急事態に対応できないし、早く帰れば役目を果たすことができません。
第九条 仕事は誠実に行いましょう
九曰、信是義本。毎事有信。其善悪成敗、要在于信。群臣共信、何事不成。群臣无信、萬事悉敗。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
私は仕事で嘘をつく人、人を見て意見を変える人は信用できません。(ここだけ個人的な発言)
信義・信頼は道義の基本です。
何事にも信義・信頼がなければなりません。
物事の善悪や成功と失敗は、すべて信義・信頼があるかどうかにかかっています。
人々に信義・信頼があれば、何事も成し遂げられます。
人々に信義・信頼がなければ、すべて失敗に終わってしまいます。
第十条 独善にならず他者を尊重しましょう
十曰、絶忿棄瞋、不怒人違。人皆有心。々各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理、詎能可定。相共賢愚、如鐶无端。是以、彼人雖瞋、還恐我失。我獨雖得、從衆同擧。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
これは個人的に耳が痛い教えです。
カッとなったり、怒って目をむくことが無いようにしましょう。
人と考えが違うことに怒らないようにしましょう。
人には皆心があります。
各々執念があります。
相手が良いということが自分は良くないと思うこともあるし、その逆もあります。
自分が必ず優れていて、相手が必ず愚かであるということはありません。
どちらも凡人で、どちらが正しいとは必ずしも言えません。
お互いが賢さと愚かさを併せ持っているのは、輪っかに始点終点が無いようなものです。
それゆえ、相手が怒った時は自分に間違いがなかったかを考えましょう。
また自分が正しいと思ったとしても、皆の意見を尊重して行動しましょう。
第十一条 評価は正しく公正に行いましょう
十一曰、明察功過、賞罰必當。日者賞不在功。罰不在罪。執事群卿、宜明賞罰。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
信賞必罰について簡潔に示しています。現代の会社でもよくよく目を光らせないと、すぐに上司の心情評価になってしまうので注意が必要ですね。
功績と過ちをしっかり見て、賞罰をしっかり与えましょう。
このごろ、功績が無いのに賞をあたえたり、過ちが無いのに罰が与えられることがあります。
政務を司る者は、その賞罰を明確にしなければなりません。
第十二条 権力の乱用、横領はいけません
十二曰、國司國造、勿収斂百姓。國非二君。民無兩主。率土兆民、以王爲主。所任官司、皆是王臣。何敢與公、賦斂百姓。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
地方の役人が私腹を肥やしていたのか?それとも地方行政の資金が足りなかったのか?
地方の役人は勝手に徴税してはいけません。
国に君主は二人いません。民にも君主は二人いません。
全国の民の主君は天皇です。
任官された役人は、皆天皇の臣下です。
公の徴税と合わせて他の徴税をしてはいけません。
第十三条 共有、引き継ぎをしっかり行いましょう
十三曰、諸任官者、同知職掌。或病或使、有闕於事。然得知之日、和如曾識。其以非與聞。勿防公務。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
これも職場の”あるある”ですね。
役職に任命された人は、それぞれの職掌を把握してください。
病気や出張で本来業務ができないこともあるかもしれません。
しかし、復帰したなら他の人と協力して分からないことがないようにしてください。
聞いていないといって公務を妨げてはいけません。
第十四条 他人を妬まないようにしましょう
十四曰、群臣百寮、無有嫉妬。我既嫉人、々亦嫉我。嫉妬之患、不知其極。所以、智勝於己則不悦。才優於己則嫉妬。是以、五百之乃今遇賢。千載以難待一聖。其不得賢聖。何以治國。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
人の本質は何年たっても変わりません。
朝廷に使える官僚は、他の人に嫉妬してはいけません。
自分が嫉妬すると、人も自分に対して嫉妬心を抱きます。
嫉妬の患いは際限がありません。
それゆえ、人が自分より知識があることを喜ばず、能力が優れていると嫉妬します。
そうすると、五百年に一人の賢人に巡り合うことも、千年に一人の聖人を得ることも難しいでしょう。
そうした優秀な人を得られなければ、どうして国を治めていけるでしょうか。
第十五条 私心を持たず協力して仕事に取り組みましょう
十五曰、背私向公、是臣之道矣。凡人有私必有恨。有憾必非同、非同則以私妨公。憾起則違制害法。故初章云、上下和諧、其亦是情歟。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
相当自分勝手になっていたことが伺えますね。
私心を捨てて公に努めるのが臣下の道です。
私心があるときは必ず恨みが発生します。
恨みがあると協力できなくなり、協力できなければその私心が公務の妨げになります。
恨みがあれば、制度に違反し、法を破るようになってしまいます。
それゆえ第一条に「上下ともに和を重視し…」と記しましたが、それもこの趣旨です。
第十六条 仕事の依頼は適切なタイミングを選びましょう
十六曰、使民以時、古之良典。故冬月有間、以可使民。從春至秋、農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何服。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
民の都合をしっかり考えてあげないといけませんね。後工程はお客様の精神です。
民を使うときには時期を選べというのは、昔からの良い慣わしです。
冬場は(農作業等の)暇があるので、民を使うことができます。
ただし、春から秋にかけては農業や養蚕の繁忙期です。
その時期は民を使うことはできません。
農業ができなければ食べていけないし、養蚕ができなければ着る物が無くなります。
第十七条 重要案件は必ず議論しましょう
十七曰、夫事不可獨斷。必與衆宜論。少事是輕。不可必衆。唯逮論大事、若疑有失。故與衆相辮、辭則得理。
引用元:ウィキペディア(十七条憲法)
この条文が個人的に秀逸だと思います。
仕事は独断で行ってはいけません。
必ず周りと議論しましょう。
些細な事はこの限りではありません。必ずしも議論の必要はありません。
ただ大事なことに関しては、間違いがないかを疑いましょう。
それゆえ皆と議論すべきで、そうすれば正しい結論を得られるでしょう。
おわりに
いかがでしたか?
1500年近く経っても十分現代で使えそうな内容ではないでしょうか?
これを参考に自社の行動指針を考えてみるのもいいかもしれませんね。
【参考文献等】
ウィキペディア(十七条憲法)(参照2022.12.12-2022.12.13)
和樂web編集部「聖徳太子「十七条憲法」を徹底解説。現代語訳を読んでみたい!」(参照2022.12.12-2022.12.13)
国立国会図書館デジタルコレクション「聖徳太子十七条憲法」林祖洞 書(参照2022.12.12-2022.12.13)