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私はこれまで多くの本を読んできました。
ジャンルは様々で、「トヨタ式」などの有名企業の成功の秘密系の本を沢山よみましたし、法律やITスキル系などの実務的なもの、チェーンストア理論や物流システムに関するもの、ビジネスモデルや問題解決の理論もの、有名経営者の本などかなり読み漁りました。
特に20代のころは、ビジネス本を読んでは、自分の仕事に当てはめることを繰り返していました。
そんな中でも、「一番のおすすめは?」と聞かれたら、真っ先に思い浮かぶのが、「The Goal」(エリヤフ・ゴールドラット著)です。
私はこれで年収を300万円アップさせたと思っています。
The Goalが私のキャリアを加速させた
私がこの本を読んだときは、キャリア1社目で食品工場の製造部長をやっていました。(会社自体は飲食チェーンでその製造部門です)
主人公とは違って、真っ赤っかに大赤字の製造部にブチ切れたオーナー会長が、「明日からお前がやれ!」といって、それまで製造部門にいたことがない私が翌日から製造部を任されました。(本当に翌日朝から工場に出勤です。大げさに言ってません)
当時はこの本のストーリーにあるように、現場は毎日がんばっていたのですが、効率が悪く、在庫が多く、返品やクレームが頻発する状態でした。
そこで、私は以下のような流れで改革を実行しました。
- 現状把握と状態の見える化
赴任当初に、「まずは現状把握」ということで全ての工場と部門について、状態(実績)を数値で管理できるように、各部門の収支と管理指標がA4一枚で表せる管理会計での収支表を整備しました。 - 目標の設定
目標収支(一旦のあるべき姿)、品質基準などを設定した上で、現状とのギャップを社員全員と認識共有をしました。同時に、それまで月次管理だった様々なことを、日次・週次管理に切り替えて、必要なデータを取るように運用を整えていきました。 - 改善の実施と効果の確認
この段階では、具体的に工程の改善などを行うのですが、その際に「The Goal」の”ボトルネック”という考え方を学んだおかげで、大きな成果を上げることができました。
詳しいことは別の記事で書こうと思っていますが、実際には「The Goal」×「トヨタ改善方式」で工場を1年で黒字化することができました。 - 社員の育成
前述の管理方法と改善手法を各部門の責任者、社員、パートさん達に理解してもらい、徐々に私がやらなくても自分たちでできるように仕込んでいきました。
このように、「The Goal」は実際の改善のところで大きく役に立ちます。特に「改善箇所」の特定に使えます。「The Goal」で問題個所を特定し、「トヨタ改善方式」で改善する。というのが私のパターンです。※1
1年後、製造部全体で黒字化を達成したところで、製造部で一番成果を上げた社員を私の後任に推薦し、製造部長を引き継ぎました。奇しくもその彼は、私の「The Goal」を仮パクしたままの社員でした。なので今は私の手元に本がありません。
The Goalはこんな話
The Goalの最大の特徴は、小説形式で楽しめるということです。
ビジネス書は苦手だけど小説は好きという方なら、主人公の物語を楽しみながら読み進めることで、ビジネス書の内容を理解できます。
さらに言うと、通常のビジネス書では理論や手法が一般化されていることが多いので、かえって分かりにくくなる場合があります。しかし、この本はちゃんと機械メーカーという具体的な状況がストーリーになっているので、実際どのように実行していくのかが手に取るように分かります。
【ネタばれしない範囲でストーリーをご紹介】
主人公は機械メーカーの工場長のアレックス。
ある日、本社から3カ月で収益体制を改善しなければ工場を閉鎖すると通告を受けます。
これまでも頑張ってきたつもりの主人公は焦りますが、急に収益改善なんて思いつきません。
そんな折、学生時代の恩師ジョナに偶然再開し、アレックスの現状を話すと、数回の言葉のやり取りでジョナは問題を見抜きます。
しかし、そこで直ぐに問題解決をするのではなく、アレックスに考えるヒントを与えます。
これまでも「1時間当たりの生産数」や「1製品当たりコスト」など、製造業でよく使われている経営指標を改善してきたと自負するアレックスは、なぜダメなのか?を考えさせられます。
ジョナは、アレックスに新しい指標で工場を評価するようにアドバイスします。
その指標は、「スループット、在庫、業務費用」の3つです。
アレックスは工場の仲間と協力して新たな指標に基づいて、問題を発見し解決していきます。
The Goalを読んだ人なら必ず分かるキーワードは「ボトルネック」です。
ボトルネック対策をしていくことで、本当の意味での工場の生産性を上げ、見事に工場を再建していくストーリーは、池井戸潤さんの作品とも通じます。(池井戸さんの方が物語性が上だと思いますが、The Goalは実用性(実践可能度)がメインです)
困難にぶち当たりながらも乗り越えている物語を楽しみながら、自分の仕事に生かせる一石二鳥のお話です。
The Goalを読んで実際にやったこと
当時はこの本のストーリーにあるように、1個当たりコストや1時間当たりの生産数などを指標として運営されていました。
しかし、肝心の収支という概念がなく、とにかくオーダーが来たら早く作って出荷するという点にばかりフォーカスされていました。
そこでどのようにこの「ボトルネック」対策をしたかというと、各部門の簡易平面図をExcelで作って、そこに製品毎にモノの流れをペンで書いていくことでした。(このとき製品毎に色を変えると効果的です)
そうすると、たくさんの線が通過する工程や動線が交差する箇所などが一目瞭然になります。
また、本書でもあるのですが、仕掛品が滞留(現場では滞留ではなく正規の置き場という認識でしたが)している場所も書き加えます。
そうすることで、「ボトルネック」候補となる工程が簡単に見つかります。
こうしてピックアップした工程を実際に観察し、その工程の具体的な問題点を確認しながら「ボトルネック」を確定していきます。
一つ対策を打ったら必ず効果を測定し、それが週次の収支に帰ってきているか(収支が改善されているか)を毎週社員ミーティングで確認しました。
効果が出れば社員のモチベーションが上がりますし、思ったほど効果が出なかったら、次どうするのかを話し合いました。
この週次ミーティングは、非常に効果的でした。
部門の責任者達はミーティングまでに実績を確認し、それを説明しなければならないので、より現場を詳細に把握するようになりましたし、現場の何がどの数値に影響するのかをしっかり理解できるようになりました。
それまで感覚的な会話や思い付きベースの対策だったのですが、自然とPDCAを回せるようになっていきました。
ちなみに、この時の部門長や社員たちは全員20代です。何しろ私が29~30歳のときでしたので。
それでも彼らは1年で黒字化を達成し、自分たちで数字(収支)をコントロールできるようになったのは素晴らしい成果だったと思います。
ちなみに、冒頭で「300万円年収を上げた」とありましたが、わたしが製造部長になった時は年収600万円で、製造部長を引き継いだ後役員になってM&A担当になったときには900万円になりました。(当時の役員最低年俸が1200万円だったのに「おまえはまだ若いから」という変な理由で900万円です・・・事実です)
The Goalが生かせる仕事
The Goalでは、機械メーカーが題材にされていましたが、もちろんそれ以外の仕事にも適用できる内容です。
・製造業
原料を仕入れて加工し製品を出荷(販売)する業種は全て適用できます。
上記の食品工場での実践が証明しています。
・飲食業
飲食業も原材料を仕入れて加工(調理)して販売するので適用できます。
・コンテンツ制作業
オンラインサービスなど「物」がなくても、自社でコンテンツを開発(制作)しているなら適用できます。実際私が上場を果たした会社はオンラインサービスを提供する会社でしたが、開発工程で「ボトルネック」が必ずあり、それを解消することで生産性を劇的に改善することができました。
・システム開発業
コンテンツ制作業と同様に、物理的な「物」がなくても、「工程」「フロー」「リソース」「リードタイム」という概念がある仕事では十分適用できます。
このように、リソース→加工(開発)→販売(出荷)という業務フローがある仕事なら何でも適用できるはずです。
あなたがこれらの仕事に携わっているのなら、一度読んでみてはいかがでしょうか。
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