意思決定の手法や理論はたくさんあって、どれも有用なものではありますが、私が一番大事だと思っていることは
仕事ができる人の意思決定にはこれがある!
仕事ができる人が行う意思決定の最大のポイントはこれです。
やらないことを決めること!
私もいろんな階層の意思決定者を多く見てきましたが、これがちゃんとできる人はごくごく少数派でした。
「やることを決める」人はたくさんいますが、「やらないことを決られる」人はなかなかいません。
私自身も、意識的にやならいとたまに疎かになってしまうことがあるので、定期的に自己点検するようにしていました。
意思決定とは
※このパートは分かっているという人は「なぜ「やらないこと」を決めるのか?」へジャンプしてください。
意思決定とは、文字通り「決めること」です。
辞書的に言うとこのようになります。
一定の目的を達成するために二つ以上の代替え手段のなかから一つまたは少数の代替え手段を選択する人間の合理的な行動をさしている。
中央経済社「経営学辞典」占部都美編著 P13(意思決定より抜粋)
言い換えると「選択」することです。
「新商品の広告にいくら使うのか?」
「どんな媒体で広告を打つのか?」
「社員をあと何人採用するのか?」
「新しい機能AとBのうち、どっちを先に開発するのか?」などなど
仕事をしていると意思決定の連続です。
経営やマネジメントの問題のすべてが意思決定問題といっていいでしょう。
また、社長やマネージャーなどの管理層でなくても、私たちは普段から様々な意思決定を行っています。「今日、どの仕事から手を付けるか」なども広い意味で意思決定です。
なぜ「やらないこと」を決めるのか?
例えばあなたが営業部長だったします。
あなたには、売上を拡大するという大きな目標があって、そのために自分の部署やチームが何をすべきかを考えます。
売り上げを上げるために、
「新しいサービスを開発しよう」
「もっと新規契約を増やそう」
「ユーザーサポートを強化しよう」
「SNSで情報発信をしよう」
など、いくつも対策が浮かんできます。
このとき、「やれることは全部やってみよう」という考え方はとても危険です。
なぜなら、どんな会社や組織でもリソースには限りがあるからです。
あなたの営業部には20人のメンバーがいますが、そのメンバーは毎日仕事をしていますよね。なんなら、全員が毎日残業している状態かもしれません。
間違っても20人のうち、5人は何もせずに過ごしているということはないと思います。
(あったらびっくりというか、逆にチャンスですが…)
そうです、今やっている現業があって、20人は20人のままなのです。
そこに「あれもこれも全部」というのは無理があります。できるならとっくにやってるでしょう。
そのため、部長であるあなたは、次のように行動します。
- どの施策からやるかの優先順位をつける
- 実施する施策の工数(と費用)を見積もる
- その工数(と費用)をどこから捻出するか検討する
- やらないこと、減らすことを決める
このように、新たに行う施策を決めると同時に、そのリソースをどこから捻出するかも考えなくてはいけません。
これをやらないと、必ず次のような状況に陥ります。
- 業務過多になってメンバーが疲弊する
- 新しい施策に集中できずに中途半端になる
- 今までの売上を支えていた業務に穴があく
- これまで発生しなかったようなミスや事故が頻発する
こうなると、売上を上げるどころか逆に減ってしまうことになりかねません。
よくあるダメなパターン
あなたは、「決められない上司」「決めない上司」に困ったことはありませんか?
部下の立場でいると、こういう上司は非常に困ります。
『さっさと決めてくれよ』と思ったことがあるのではないでしょうか?
逆に、毎日「あれをやろう、これもやろう」と、どんどん仕事を増やすだけの上司もかなり災難です。こっちのパターンの方が多いかもしれません。
「上司の仕事は決めること」と良く言われますが、考えなしに「やること」だけを決めるなら、何も高い給料をもらっている人でなくてもできます。
こういう風に書くと、なんだか当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実際はこういう人が非常に多いのが現実です。
当然、こんな上司ばかりだと、会社の生産性は上がらず、どんどん悪い方向へ進んでいってしまいます。
また、こういう上司がいると何が起こるかというと、メンバーが勝手に取捨選択するようになってきます。
各担当者が取捨選択をするということは一見効率的だったり、自律的のように感じますが、メンバー全員が全体最適を正しく評価し、自分の都合を排して合理的な判断ができる可能性は天文学的に低いです。
二・三人の組織なら可能ですが、人数が増えれば増えるほど確率は指数関数的に低くなります。(これは単純な数学の話です)
そのため、組織にはリーダーや意思決定者を置いていて、正しい判断を素早く下すとともに、組織の目標に向かう「やりくり」をさせているのです。
- 意思決定で重要なことは「やらないことを決める」こと
- 早く決めるだけではやることが増えすぎる
- 意思決定の質が組織の生産性を左右する
ベンチャー起業はここに気を付けて
ベンチャー起業などの急成長している組織の場合は、意識的な点検と判断がとても重要です。
これは私が経験してきたことでもあるので参考にしていただければと思います。
例えば、まだメンバーが3人で売上が月間300万円くらいだった時期を思い浮かべてください。
このとき、あるサービス(業務)で月間50万円の売上があり、それに0.5人月かけていたとします。
この時点ではこのサービスは重要な収益の柱で、0.5人月をかけてもやるべき仕事でした。
その2年後、会社の売上が月間3000万円になって、メンバーが7人に増えました。
着実かつ急速に成長し、常に人手不足ですが、新しい人を採用しながらどんどん仕事を拡大していきます。
さらに翌年は、売上が月間5000万円を突破し、メンバーも10人を超え、業界で注目される成長起業となりました。
いうまでもなく、この時点でも常に人手不足です。
ここでふと気づきます。50万円/0.5人月の業務が今も変わらず運営されています。50万円も0.5人月も3年前と変わりません。こういう業務というのは結構あります。
このときあなたならどうしますか?
上記の記事の流れだと「このサービスを止めてしまう」と考えるかもしれませんね。
ただし、私がとった行動はこうです。
50万円とはいえ、年間で600万円あるサービスなので、止めることはしませんでした。
その代わり、非効率な業務工程を削減したりツールを改良して工数を0.1人月にしました。
さらに、その時はアルバイトも採用していたので、簡易マニュアルを作って社員からアルバイトに業務をスライドさせました。
こうすることで、50万円とはいえ生産性は5倍以上に高まったうえ、売上を減らさずに対処しました。
ここでは、「非効率な業務工程」や「使いにくいツール」が「やらないこと」に相当します。
他にも、実際にサービスを中止したものもあります。
始めてみたはいいけど、全然期待外れでしかも工数がかかるサービスがありました。
このサービスは開始8カ月で新規受付を中止し、その後2年かかって既存ユーザーのクロージングする羽目になりましたが、8か月目という比較的早い段階でストップしたので、被害が限定的に収められてよかった事例です。
ダラダラと長くなりましたが、何が言いたいかというと、成長中の組織では「どんどんやることが増えて、やめることに意識がいかなくなる」ということです。
そんな時、リーダーであるあなたは、個々の業務の効率や意義を分析して、やめること、削減することも同時に行っていかないと、どんどん生産性が下がっていきます。
この記事が何かの参考になれば幸いです。
最近DAOという特定のリーダーを作らず、みんなで意思決定を行う「分散型自律組織」が注目されています。DAOでは一見、上記の記事の内容が直接当てはまらないように感じますが、そんなことはないと思います。
上記の例では営業部長という典型的な株式会社的組織のマネジメントを使いましたが、本文序盤にあるように、意思決定は常日頃誰もが行う行為です。
DAOでは、事柄によって投票権がある人による「投票で物事を決める」という決め方の違いはあるものの、意思決定の本質的性格は変わりません。やることを決めたら誰かがやらなくてはなりませんし、目的や目標に貢献しない(貢献が極めて低い)ことをいつまでもやっていても仕方がないからです。